B:大針の魔蜂 スティンギング・ソフィー
「スティンギング・ソフィー」は、「フルフラワー養蜂場」の蜜蜂を食い荒らし、ブクブクと肥え太った大物のホーネットだ。冒険者ギルドに討伐が依頼されたが、その極太の針の餌食になり、倒れる者が続出。「リスキーモブ」に指定される至ったそうだ。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
生物は特に手を加えなくても一定の確率で変異体が発生するんだそうだ。それがその生物にとって良い変異であるのか、悪い変異であるのかはまた別の話だが、そういう変異体の発生はそれは生きとし生ける全ての生物に共通していて、その中にはもちろん人間も魔物も含まれる。
黒衣森の東部森林にはホーネットという超大型の蜂が生息している。この蜂スズメバチだと思われているがは分類上はミツバチの仲間で、サイズの違いこそあれ、その生態はミツバチそのものと言ってもいい。
シーズンになれば女王蜂が巣から一人で飛び立ち、新たな巣をつくる。働き蜂をどんどん産み、働き蜂に身の回りの世話や花の蜜や植物の樹液を集めさせ、それを糧に卵を産み、幼虫を育て、どんどん大きなコミュニティにしていく。そしてそのコミュニティから新たな女王蜂が生まれ、一人巣立ちしてその営みが繰り返されていく。
ある年、そんなホーネットに変異体が生まれる。変異体は他のホーネットの倍ほどの大きさもある女王蜂だった。だがその頃の彼女には見た目とその旺盛な食欲以外に特に目立った点もなく、働きバチの献身ですくすく成長し巣立ちの季節を迎えていた。そして巣立った彼女はここで初めて異常行動を起こす。
女王蜂は通常、自らのコミュニティを構築するためまずは新たに小さな巣をつくる。だが彼女は違った。
外の世界に飛び立った彼女は手始めに自らの育った巣を強襲した。自分を育てた働き蜂や動けない幼虫、ため込まれた蜜や樹液はもちろん、自分を産み落とした女王蜂まで残さず全て捕食した。
その後森に飛び立った彼女は「フルフラワー養蜂場」を見つけると巣箱という巣箱の全てを襲い捕食した。「フルフラワー養蜂場」で飼育されていたミツバチは所謂どこにでもいる普通の小さなミツバチだったため、当然彼女は満足できず、食い散らかしたのち新たな獲物をもとめて森に飛び去った。
森に飛び去った後も彼女はミツバチ種の巣を探し出しては襲い続けたらしく、東部森林では食い散らかしたミツバチやホーネットの巣が度々発見されるようになる。そしてフルフラワー養蜂場がまた新たなミツバチの飼育を始めた頃、彼女は戻ってきては食い荒らすという行動をとり続けた。不思議な事に彼女が食欲をそそられるのは同じミツバチ種だけのようだった。
ミツバチを巣ごと食い荒らされ続けたフルフラワー養蜂場は完全に経営危機に陥り、困り果てて双蛇党に助けを求めだが、鬼哭隊も神勇隊も歯が立たずソフィ―から返り討ちにされてしまったらしい。
結局リスキーモブに指定されてあたし達にお鉢が回ってくることになった。
フルフラワー養蜂場はグリダニアからホウソーン方面に続く林道の脇の土手の上にある。土手の斜面にいくつかの巣箱が見え、その先に山小屋が伸びた草の間に見える。あたし達は林道の縁に腰掛けて巣箱の方を眺めながらソフィーを待っていた。
「この辺りってさ、養蜂場があるせいかハニーヤードって呼ばれてるのよ」
育った孤児院が黒衣森だったあたしは地元の利でうんちくを披露しながら得意気に言った。
相方はそんなくだらない話も目を丸くして聞いてくれる。そんな調子で道端に座り続けて数時間。陽は頭の真上を過ぎ、すっかり午後の色の木漏れ日が射してきた。
「今日は来ないのかもね」
相方が伸びをしながら言った。
少し睡魔と戦っていたあたしは深呼吸するように鼻から大きく息を吸い込むと相槌を打とうと相方の方に顔を向けた瞬間、視界に大きな何かが入った。
相方の20mほど向こう側、草を掻き分けながら巨大な黒い目をした得体のしれない何かが6本の足を器用に動かしながら歩いていた。あたしは思わず変な声を上げて立ち上がるとそいつに怒鳴りつけた。
「あんた、蜂なら飛んで来なさいよ!」
相方も慌てて振り返りながら立ち上がった。
自分に向けられた怒鳴り声に気付いたのか、それとも自分に向けられた敵意を感じたのか。
不気味に頭をくるっと回しあたし達を見るや、巨大で透明な羽をバババっと震わせ、聞いたこともないような振動音にも似た大きな羽音と砂埃を立てながら飛び上がった。その臀部から丁度ナタくらいの大きさと太さをした大針が出入りしている様子が見えた。